バウヒニアに郷愁を覚えたら ― 香港の裏側で考えたこと・その1
五年前、香港で最初に働いていた会社を辞めて、少し長めの旅に出た。
スペインやモロッコで2週間くらいぶらぶらして、マドリードからアメリカ経由で南米へ。
はじめての南米、比較的落ち着いているウルグアイで数日を過ごしてから、アルゼンチン・ブエノスアイレスに向かった。
ブエノスアイレスといえば、当時はケチャップ強盗だなんだと治安面で心配も多い場所。チキチキ旅行者の私は緊張しながら船を降りて、船着場からなんとか徒歩圏内の日本人宿まで歩いていったことを今でも覚えている。
そんなブエノスアイレスで宿の近くをおっかなびっくり歩いている時に目に飛び込んできたのが、Restaurante Chino Bauhinia。
バウヒニアといえば、香港の旗や特區區章、そしてコインにも描かれている香港を象徴する花だ。
店内はオリジン弁当みたいなよくあるデリの店で、香港人のスタッフがいるわけではなかった。スペイン語はできないので、どうして店名が「Bauhinia」なのかも聞けず、なんとなく炒飯やら、サラダやらを取って店内で食べたくらい。
そんなに香港を感じさせるメニューでも、味でもなかったように思うけれど、それでも香港から一番遠い国のひとつでバウヒニアを目にするだけで、なんとなく心が落ち着くような、そんな気がした。
南米に行った2016年夏当時はまだ香港に住み始めて3年弱くらいだったけれど、既に私の中で香港は、祖国とも、異国とも違う特別な感情を持つ場所になっていたように思う。
ふと目にしたバウヒニアに郷愁を感じるほどには。