茶餐廳バカ一代

熱奶茶と菠蘿油から始まる、めくるめく茶餐廳の世界と旅の話。

いとしき場所、好きな場所をあらためて想う - 小野寺光子さんの「香港 香港。」展

一年半ぶりに帰国し、禊を済ませて娑婆に出てから早一ヶ月。ようやく日本に慣れてきたところで、小野寺光子さんの個展「香港 香港。」に行ってきました。

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さまざまな事情により往来が難しい時期が続いていて、日本を拠点にして香港に足を運んでいた人だともう二年近く香港から遠ざっていることも珍しくない今。私も香港を離れてあちこちふらふらしているうちに半年弱が経ってしまい、香港へ戻るタイミングも、意味も意欲も見失っています。

 

あれだけ長くズルズルと居座ってたのに、物理的心理的に距離を取っているうちに少しずつ自分の身体から香港の記憶が抜け落ちてきてしまったような気がする中で、「香港 香港。」展はただ単に"好きなイラストレーターの方が描いた絵を見る"、というだけではなくて、作品に囲まれ眺めているだけで自分自身の「香港の感覚」がじわじわと湧き上がってきては、言葉や形にできない香港への想いになって頭から身体までめぐるような場所であり時間でした。

 

香港から離れているはずの自分がいま、深水埗の肉屋や街市のストールの目の前に立っている、あるいは手を伸ばせばプラスチックのお椀から粥をすすれるような気になってしまうほど没入感のある大きな絵。ひとつひとつがどこまでも繊細に、緻密に描かれているのに、描かれた小野寺さんご本人のお人柄までにじみ出て来るようなユーモラスさと美味しそうさ(喉から手が出るほど西多士が食べたくなりました…)を感じずにはいられない作品群。

香港の見慣れた、そして愛すべき景色そのものが視覚から絵の世界を飛び越えてやってきて、自分が香港で体験したにおいや音、名前も知らないけれどそこにいるであろう人の声、果ては口にした時の味までが頭の中で再生されるような気分になるのは、それだけご本人の中にある好きな香港の記憶や想いが強いことに見る者が呼応するのかな、なんて思ったり。

 

後ろ向きにならざるを得ない状況や情報が溢れている中で、好きな場所や人(や猫や食べ物や建物)をこんなにはっきりと、いとおしく表現できることってなんて素敵なんだろうと思いながら、まだまだ続くであろう香港の夏を想い、秋が見えてきそうな東京の夏を噛みしめています。

 

小野寺光子さん個展「香港 香港。」は8月25日(水)まで、吉祥寺のリベストギャラリー創にて開催されています。素敵な画集やグッズの販売に加えて、ご本人が在廊されていることもあるようですよ!

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