茶餐廳バカ一代

熱奶茶と菠蘿油から始まる、めくるめく茶餐廳の世界と旅の話。

屋台で育つ ― 深水埗石硤尾街・根記大排檔

路上の大排檔(いわゆる屋台)が限りなく少なくなっている21世紀の香港にあって、中環や大坑と並んで現役の大排檔が気を吐いている深水埗・石硤尾街。

福華街のあたりには「小菜王」や「增輝」、基隆街に少し入ると「強記」、荔枝角道の南側に「愛文生」「天祥」と、日暮れ頃からビールと小菜でワイワイやる大排檔が多いけれど、それとは少し趣を異にするのが愛文生の向かいにある根記大排檔。

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香港らしい緑で塗られた屋台が素敵な根記は、中環で生き残っているいくつかの屋台と同様に昼間営業で酒を出さない茶檔系大排檔。看板にも"奶茶" "咖啡"の文字が光る。

日曜はお休み、平日〜土曜日は朝7時頃から夕方4-5時までの営業となると、朝に弱く、月〜金で働いていた(当時)私にはなかなか行きにくい店だったのだけど、ひとりでも気軽に入れる大排檔(小菜の店だとひとりで、酒無しだとちょっとやりづらい)なので土曜日や平日休みの日に気が向くと足を運んでいた。

深水埗の荔枝角道以南から大角咀にかけては自動車や電気機器関係の修理や中古販売、廃品回収、金属関係の工場やら、工業大廈(これはほぼ大角咀)やらが結構多いので、そういうところで働いている人たちの朝食・昼食・下午茶がメインなのだろう。ランチの頃になるとラフな格好をした人たちが軒下に並ぶテーブルへと集ってくる。屋内じゃないから煙草も吸えるしね。

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ライセンスや設備の関係もあるからか、メニューは茶餐廳ほどバラエティに富んではいなくて、奶茶・咖啡を中心とした飲品(ドリンク)と三文治(サンドウィッチ)、多士(トースト)、奄列(オムレツ)といった朝食・軽食、それに麺類と、昼の時間帯は午市快餐としてぶっかけ飯系が5-6種類あるのみ。

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軒下のシャッターに掲げられた快餐メニューは素人感のあるイラストがかわいい。お値段はめちゃくちゃ安いわけではないけれど、最近九龍の他の街を追いかけつつある深水埗にしてはまだまだ良心的な部類です。
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ここは凍熱同價(香港では冷たい飲み物の値段が2-3ドル程度高いことが多い)なのと、外席で暑いのでついつい凍奶茶ばかり頼んでしまうのだけれど、茶檔の熱奶茶はやはり良いものです。とにかく茶の味が強い(濃い)ので、コンデンスミルクたっぷりのコテコテ西多士にも打ち勝てる。

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屋台の正面には黑白淡奶の缶とステンレス樽のカップが並んでいて、なんて正しい茶檔なのでしょう。

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そして食べ物を調理するのはこの年季が入った、やはり緑が目に優しい火力抜群なコンロ。

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近くに座るとゴーッという火の音、鍋を振るう音、そして匂いにバッチリ食欲を刺激されながら出来上がりを待つことになる。快餐の香煎芙蓉蛋飯はシンプルだけど、やはり火力の強さによる鑊氣が良い。この日は立冬なのに32度もあったので、飲み物は凍奶茶少甜で。凍奶茶もやはり茶味が効いている。
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親子でやっていると思しき根記。土曜日の昼は若旦那が鍋を振るい、お子さんはその後ろで宿題を広げていたりする。
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夜とか週末にお子さんが店で過ごしているのは香港あるあるだけど、自分のテーブルを持っているのはちょっと羨ましい。常連らしいお客さんから教えてもらって(ちょっかいを出されて?)、小さいうちからコミュニケーション能力高そうです。厳しい世の中、厳しい香港だけど、屋台ですくすく育ってくれるといいな。

 

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